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最初に登場人物を紹介しておきましょう。
主人公は山田一郎さん。年齢は40歳。大学卒業後、メーカーの営業員をしていましたが、3年前に倒産。やむなく、親が興した婦人服小売業を継ぐ決意をして帰省。
もちろん、洋服のことなどまったく知識はありません。営業員といっても、事業者向けのルートセールスでしたから、消費者を相手にした店頭接客は、まったく勝手が違います。
毎日、わけがわからないまま、父親のいうがままに働き、ようやく商売に慣れてきたある日のこと。父親に「話がある」と切り出されました。
父親 なあ、一郎。お前、どうするつもりや。
山田 どうするって、突然何のこと? 親父。
父親 そやから、マジメに後を継ぐつもりがあるか、
ってことや。
山田 継ぐも継がんも、今更働ける場所がないわ。
そりゃあ、できたら潰れない会社に越したことは
ないけど、今のご時勢、そんな会社はこの年では
雇ってもらえへん。
父親 そやったら、しゃあないから後を継ぐ、っちゅう
ことか?
山田 しゃあない、ってことはないけど...
俺かって、休みなしで一生懸命がんばっている。
そやけど、食べていくのが精一杯やからなあ。
父親 ...
わかった。もういい。 明日から店に出んでいいから、仕事探しに行け!
怒ったような口調でそういって、父親は席を離れてしまいました。後に残された山田さんには、なぜ父親が怒っているのかわかりません。
会社が潰れてから3年間、父親のいうとおりに働いてきました。会社員の頃とは異なり、ろくに休みもありません。お店が休みの日でも、問屋に仕入に行ったり商品に値札をつけたりと、自分の自由になる時間は、ほとんどありません。
それでも文句もいわずに働いてきたのですから、山田さんにも不満は溜まっています。
しかし、父親に「仕事を探しに行け!」いわれたからといって、今の雇用状況では、それがムリな話であることも充分わかっています。
「どないせえ、っていうんや...」
その夜、山田さんは奥さんの花子さんにグチをこぼしていたのです。
山田 親父、何を考えてるんやと思う?
花子 さあ...
義父さんの考えはわからんけど、ひょっとして
お店の状況がしんどいんとちゃうか?
山田 そんなアホなことあるかいな!
親父がやってる本店の方はわからんけど、
俺が任されてる支店の方は、平均したら
毎日10万くらいは売れてるんやで。
世間は不景気やというけど、誰に聞いても
ウチは売れてる方や、って言われてるで?
花子 そやけど、私らの生活費は貰ってるわけやろ?
山田 そりゃあ、それだけ働いてるから当然やろ。
従業員もパート2人だけやから、
こっちはロクに休みもなしやで。
花子 そんだけ、儲かってる?
山田 ん? どういうことや?
花子 そやから、辞めてもらった従業員さんに支払ってた
分より、私らが貰ってるお金の方が多いやないの。
それだけ、儲けが増えてたらええんやけど、
もし、そうやなかったら、ってこと。
山田 そんなことは、親父に聞かなわからへんわ。
そやけど、お前は見るな!って、
帳簿も見せてもらえへんしな。 まあ、見ても全然わからへんけどな。
花子 それやったら、お店の状況を1回きちんと
義父さんに聞いてみたら?
山田 聞いてみたら、って簡単にいうけど、
ややこしいんやから...
花子 何ゆうてんの! それとも、ハローワーク行くつもりなんか?
山田 まさか...
今の時期、ロクな仕事はあらへんで。 それやったら、今の仕事で充分や。 商売も、やってみたら面白いこともあるしな。
花子 ほな、明日の朝にでも、義父さんに聞きいな。 それで、はっきりさせたらええやん。 悪いけど、私も朝が早いし、もう寝るわ。
そういって花子さんは寝室に行ってしまいました。
家計を助けるため、花子さんは、近くのスーパーにパートに通っています。
ご主人の一郎さんから聞かされた義父さんの意向に不安もありましたが、翌日の仕事のことを考えると、そうそう相手をしていることもできません。
翌日、どんな状況が山田さんを待ち構えているのでしょうか?
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